10月
11
2013

【要旨】
ハンナ・アーレントの有名な1951年の著作(『全体主義の起源2 帝国主義』)に依拠して、本講演は「権利をもつ権利」と定義される市民権をヨーロッパの場合に即して考察する。なぜなら、欧州市民権の原理は新しいフェデラルレベルの市民権の構築にあるのではなく、個々の加盟国のナショナル市民権を互いに他に開放することにあるからだ。この意味で、欧州市民権とは「権利をもつ権利」を欧州連合の全加盟国に拡大することを意味する。EUがかかる権利の脱ナショナル化の論理を積極的に推進していたならば、EUは基本権行使の条件とされてきたナショナル・アイデンティティの境界を突き崩す空間として立ち現れることもできただろう。

ここで条件法を使ったのは二つの理由による。第一の理由は、新しいものではなく、ヨーロッパは国籍上の帰属と権利の承認を切り離す試みの実験室たろうとする野心を掲げてきたし、一定の成果をあげてきたが、移民・庇護政策に関しては制限的な方針を採ってきたことである。第二の理由は、より最近のもので、国境を超えた世界市民的市民権が後退の危険にさらされていることである。獲得された世界市民的市民権はまだ脆弱なものだが、その成果が倒錯的なかたちで悪用されているとは言わないが、後退の危険にさらされているのである。ヨーロッパの諸国民が、相互承認から相互不信に傾き、人の移動が社会的国家の獲得物に寄生する危険が、今日われわれの目の前にある。

【ディスカッサント】 山元一(慶応大学)

【主催】 日仏会館フランス事務所、中央大学

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。