11月
11
2009
  • ロナルド・ドーア(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
  • 岩井克人(東京大学)
  • 司会:伊丹敬之(一橋大学名誉教授)
  • 主催:日仏会館
  • 協力:中央大学
  • 後援:東京財団
  • ロナルド・ドーアと岩井克人・佐藤孝弘の主張の要旨

    • ロナルド・ドーアの主張の要旨

      20年来、経営者の評価が株価の動向に規定され、また株の時価総額が安いと敵対的買収の標的にされるようになって、日本の企業は「従業員主権型」から「株主主権型」に変化した。この動きをくいとめ、「ステークホルダー論」に沿った企業社会を作るためには、株主以外の様々な利害を考慮した経営が可能となる環境が育つように敵対的買収に関するルールを作る必要がある。

      敵対的買収には、「戦略型」、「経営の質的改良型」、「余剰金吸い上げ型」の3類型があるが、岩井・佐藤の企業買収に関するルール制度化の提案は、株主が持つ権利の中に総会の表決によって経営者の任免件を含めることを認める点で「株主主権論」の立場に立つ改正に過ぎない。この改正ルールは株主以外の利益を考慮せず、敵対的買収の中でもっとも問題の多い「余剰金吸い上げ型」を抑止する効果も期待できない。

      ドイツのような「従業員・株主共同主権体制」を日本で実現することは、政治的に非現実的だとしても、せめて以下の改革を実現することによって、ステークホルダー論の理想に近づくルールが可能となろう。(1) 株式持合いなどによって、安定株主工作を追求することを良心的経営者として当たり前とみなす世論を形成する。(2) イギリスの「100%買収ルール」を導入して「余剰金吸い上げ型」の買収を防ぐ。(3) 敵対的買収に対する防衛策の基準をステークホルダー重視論に置く。

    • 岩井克人・佐藤孝弘の主張の要旨

      われわれの立場を「株主主権論」とみなすドーアの主張は誤解である。われわれは、「株主が会社をモノとして所有し、その会社がヒトとして会社資産を所有するとともに、経営者を通して人的資産を管理するという二階建ての構造」として会社の本質を把握している。この1階部分を強調すれば、ステークホルダー重視の会社が可能となる。われわれは「会社は株主のものでしかない」とみなす「株主主権論」を否定している。

      会社買収の問題を考える際に重要なことは、「道徳論」の視点ではなく、「制度論」の視点が重要である。つまり人々が社会にとって望ましい価値を高める行動をとるインセンティブを組み込んだ制度を作る必要がある。ドーアのような敵対的買収の類型化は、「道徳論」に傾き、危険である。

      会社買収の制度設計の価値基準は「株主価値の最大化」ではなく、社会全体にとって望ましい「会社が生み出す付加価値の最大化」であり、そこには会社の付加価値に対する従業員の貢献も含まれる。われわれは、会社が生み出す付加価値の最大化する経営者が選ばれるためのルールを提案する。具体的には、(1) 会社支配権の移転手続きの明確化、(2) 公開買い付けに関するルールの変更、(3) 「種類株」上場の容認である。これらのルール改正によって、株主が会社の付加価値を高める経営者を選ぶインセンティブが与えられるし、「種類株」を活用すればドイツ型の共同決定に形を含めて多様なガバナンスが可能となる。

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。