7月
05
2023

ジュリアン・グラック (1910-2007) は回想のなかで、地理学者のエマニュエル・ド・マルトンヌと作家のアンドレ・ブルトンに対し、深い謝意を表している。彼は 1940 年代半ばに、地理学者でなく作家になる決心をしたが、それは精神的な探求における根本的な転向を意味したわけではない。むしろ地理学者としての修学は、彼のシュルレアリスム的な思考の展開のための重要な一過程だったと言える。地理学のフィールドワークも、グラックがシュルレアリスム的な探求の幅を広げ、深めることに役立っている。「超現実」は、現実世界から遊離した非現実の世界に求められるのではなく、ありきたりの風景に驚異を見出したり、日常的な見方とは異なる見方で世界を見るなかで感じ取られる。この作家の作品からいくつかの部分を読んで、地理学とシュルレアリスムとの出会いによって生まれるポエジーを、味わっていただけたらと思う。

サン・フロラン・ル・ヴィエイユ(フランス)のジュリアン・グラックの家
永井教授撮影、2022年8月

永井敦子

上智⼤学⽂学部フランス⽂学科教授、学生総務担当副学長。アンジェ⼤学⽂学博⼠課程修了。博士論文のタイトルは「Julien Gracq et la guerre」 (ジュリアン・グラックと戦争)。2007年3月、アンジェ大学に客員教授として滞在し、研究活動および2回の講演を行った。現在の研究分野は、20世紀フランス文学、特にシュルレアリスム、サルトル、マルローなど。 2023 年に出版された『日本から見たマルロー : 小説、エッセイ、芸術』の共著者。

【主催】ラファエル・ランギヨン (日仏会館・フランス国立日本研究所)

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。