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裁判官の介入は、医療、労働、環境、ビジネスなど、社会的、経済的、財政的な生活のさまざまな領域にまで及んでいる。これまで司法の介入が少なかった分野での訴訟の増加は、フランスや日本では20年以上、米国では半世紀近く前から見られる傾向である。それは「司法化」という言葉の広まりからもわかるだろう (e.g. Scheingold 1974; Shapiro & Stone Sweet 2002; Pélisse 2003, 2009, 2020; Commaille & Kaluszynski 2007; Foote, Kawai, Moriya, Kakiuchi, Kaminaga, Wada, Tomohiko & Ota 2009; Murayama 2013; Steinhoff 2014)。
訴訟を用いるということ自体は新しいことではないが、この連続講演会では、訴訟・司法手続を用いることについて、とりわけその社会的・法的・経済的・政治的な条件や、その背景、法を使う様々なアクターに焦点を当てたい。フランスと日本の研究の比較は、「司法化」という用語が包含する異なる理論的定義と現実の適用のあり方を理解し、以下のような問いに答えるための独自の方法を提供している。すなわち、各国における司法化の実践は、「アメリカ化」という意味で収束しつつあるのか、そしてこの収束の決定要因となっているのは何か(Kagan, 2007)。それとも、むしろ国ごとの特異性が維持されているといえるのだろうか、その場合、各国の特異性はどのように進化しているのだろうか(Rosa 2012)。
連続講演会 「社会問題・労働問題・環境問題に関する訴訟の役割―日仏比較の視点から」 第5回
「反原発訴訟からエネルギー転換訴訟へ?日本とフランスのエネルギー分野における司法化のあり方とその変遷
」
マガリ・ドレフュス(フランス国立科学センター、リール大学) 「訴訟におけるエネルギー転換」
要旨: フランスでは、昔から充実したエネルギー分野での訴訟活動が行われている。多くのテーマや状況がカバーされており、行政裁判所や司法裁判所と関係がある。この訴訟では、原子力発電や再生可能エネルギーといったエネルギー生産工場の開発が地域の環境に悪影響を与えると考える自然保護団体や地域住民などが原告となっている。このような状況を踏まえつつ、本発表では、環境問題の司法化という現象についてこれまでのセミナーで提起された問題をエネルギーの視点から掘り下げている。ここでは、法の社会運動的(militant)利用が見られるだろうか?また、「エネルギー転換」の訴訟の出現を確認することができるだろうか?原子力および再生可能エネルギー分野における最近の判例を検討し、これらの問いを考えたい。また、当事者間のパワーバランスを評価し、政治的動機と紛争の地域性の間の複雑な絡み合いを検証したい。
プロフィール: マガリ・ドレフュスは、リール大学行政・政治・社会研究センター(CERAPS)のフランス国立科学センター(CNRS)研究員(法律)。環境、特に気候変動とエネルギーに関連した地域の公共活動に焦点を当てている。パリ第1大学(パンテオン-ソルボンヌ)で比較法の修士号、欧州大学研究所(フィレンツェ)で法律の博士号を取得。 国際応用システム分析研究所(IIASA)(オーストリア)、国連大学高等研究所(東京)で4年間のポスドク研究員を務めた後にCNRSの研究員となった。また、政策研究大学院大学(東京)に2年間、客員研究員として在籍していた。
飯田哲也(環境エネルギー政策研究所) 「福島原発事故から10年、岐路に立つ日本のエネルギー転換とコミュニティエネルギーの台頭」
要旨:
日本では、歴史的にエネルギー政策(原子力や気候政策を含む)が国の密室で決められてきたため、市民からの働きかけは、長い間、反石炭火力立地や反原発訴訟に限られてきた。それが1990年代末から、報告者自身が関与するかたちで、以下のように変わってきた。
1998年からの自然エネルギー立法(FIT) 1998年11月からドイツなどで驚異的な効果を発揮していた自然エネルギー買取法(FIT, Feed in Tariff Law)を手本に、報告者自身が草案し、超党派の議員立法というかたちで、全国的に大きな運動となった。この時点では立法に失敗し、2002年に国(経済産業省)主導の法律が成立したが、その後の2011年のFIT法成立に繋がった。 2000年代の東京都からのエネルギー政策変革 報告者と東京都との密接な連携のもとで、自治体からのエネルギー政策変革を実現できた。 ・ エネルギーと温室効果ガスの報告徴集制度(2003年)→環境省の制度改正へ →これは3段階の進展を経て、2008年のアジア初の排出量取引制度へ繋がった。 ・ 欧州型の省エネラベル(2005年)→国の省エネラベルの改正へ 2004年の福島県からの異議申立て 2000年から国の原発政策に翻弄されてきた福島県は、佐藤栄佐久知事(当時)のイニシアチブで、独自にエネルギー政策検討会を立ち上げた。協力を求められた報告者は、その中で2004年に六カ所村再処理工場で始まろうとしていたアクティブ試験を批判し、福島県とともに国の核燃料サイクル見直しを訴えて、一石を投じた。 2011年3月の福島第一原発事故の影響 この事故は日本全体に大きな被害をもたらしたと同時に、原子力やエネルギーに対する国民全般の意識を根底から覆した。その流れの中で、 ・ 菅直人総理(当時)は自らの進退を賭けてFIT法を成立させた(2011年) ・ 福島県は、報告者の働きかけで2040年自然エネルギー100%を決定した(2012年) ・ 「エネルギー基本計画」を審議する過程で、日本初の討議型世論調査が行われ、また9万通ものパブリックコメントが寄せられて、2030年代原発ゼロが一度は決定された。 コミュニティエネルギーの台頭 ・ 2012年末成立の経産省の影響力が大きい安倍晋三政権は、旧来の国主導・市民排除型の運営となり、原子力推進へと巻き返した。 ・ 他方、FIT法で自然エネルギー(とくに太陽光)事業化が容易になったこと、市民意識が高まったことで、全国でコミュニティエネルギーが立ち上がり、報告者はそれを支援した。 脱原発と脱炭素の間で広がる矛盾 ・ 安倍・菅・岸田と続く自民党政権は既存のエネルギー秩序と原子力復権を目指す一方、世界は太陽光・風力・蓄電池・EV化などで疾駆しており、日本の立ち遅れが目立つ。 ・ 異常に原子力に固執する国とそれを忌避する市民との間での対立も目立つ。 ・ 再エネの急速な拡大、電力市場改革なども並行して進んだ結果、さまざまな制度・政策・法的な論点が急速に広がってきているが、国の対応や改善が立ち遅れている。
プロフィール: 飯田哲也は、再生可能エネルギー分野の独立した非営利団体である環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し、2000年から会長を務めている。1999年の固定価格買取制度(FIT)の開発、2001年の東京電力とソニーによる自主的なグリーン電力証書システムの創設、2001年の北海道での日本初のコミュニティ風力発電の創設、2004年の長野県でのデンマーク型地域エネルギー・環境局の設立など、エネルギー関連の社会イノベーションを手がけてきた。特に原子力、再生可能エネルギー、気候の分野で、国や地方レベルでの公共政策の策定に積極的に参加してきた。また、東京都庁におけるキャップ&トレード制度の導入や、福島・長野における再生可能エネルギー100%の目標達成にも貢献した。World Wind Energy Honorary Award 2016を受賞、Xprize Abundant Energy Alliance (AEA) Brain Trust (2021-)、Taiwan Presidential Hackathon International Track judges (2021)のメンバーでもある。
河合弘之(弁護士) 「日本における反原発運動と原発差止訴訟」
要旨: 2011年3月11日の東京電力福島原発事故(以下、ふくいち事故)の前にも各原発サイトで差止訴訟は起こされていたが、敗訴がほとんどだった。勝訴は高速増殖炉もんじゅを差止めた名古屋高裁金沢支部判決と志賀原発を差止めた金沢地裁判決だけだった。その二件とも不服申立がされ、上級審ですぐに取消された。その他は全敗で、20連敗(数え方にもよるが)であった。
反対運動も各原発立地や東京、大阪等で展開されていたが、国民的な盛り上がりに欠けていた。その理由は、「原子力ムラ」(原子力利益共同体、特に電通)による約50年に及ぶ「原発安全・安心・必要キャンペーン」のせいである。多くの国民は「日本の原発は安全だ、少なくとも重大事故は起こさない」と思い込まされていたので、本気で反対する人は少なかったのである。
しかし、ふくいち事故によって国民の認識は変わった。「やはり原発は危険だ」と。そして原発差止訴訟を担当していた弁護士達の認識、覚悟はより強固になった。「やはり自分達の戦いは正しかった。裁判官の認識も変わったはずだ。もう一度訴訟をやり直そう。」と多くの弁護士は思った。そして「脱原発弁護団全国連絡会」を結成し、日本全国の原発に対して差止訴訟を新たに提起した。差止訴訟は東通原発以外の全ての原発に対して提起された。
その成果として、勝訴は大飯原発(福井地裁判決)、高浜原発(福井地裁仮処分)、大飯原発(大津地裁仮処分)、伊方原発(広島地裁・高裁仮処分)である。残念ながらそれは不服申立により、のちに覆されたが。敗訴は川内原発(鹿児島地裁判決)など多数である。ふくいち事故以前のような「全敗」状態ではなく、かなり善戦している。
原発についての世論や運動は、ふくいち事故直後は大きく盛り上がり、原発擁護勢力は意気消沈した。しかし政権交代(民主党→自民党)により原発推進勢力は息をふきかえし、反原発の世論は沈静化した。それにつられて裁判所も原発再稼働を容認する判決が増えた。しかし、最近になってまた大飯原発(大阪地裁判決)、東海第2原発(水戸地裁判決)で差止判決が出た。まさに一進一退という状況である。
その中で東海第2原発の差止判決は特に重要である。それは苛酷事故時の避難計画がない場合、もしくはあっても実効性がない場合は、それだけの理由で(たとえ原発が一応安全だと認定された場合でも)原発の運転を止めなければならないとしているからである。この理由は全ての原発に適用できる(水平展開できる)。
それにしても原発差止訴訟の勝訴率は低い。それはあまりに高度な科学・技術論争をしすぎるからである。日本の裁判官は文系で超多忙かつ3年で転勤になる。そのような裁判官に高度な科学・技術論争をしかけても理解されない。その結果、「大企業、大電力、権力、行政」のいうことを認めておく方が簡単で自分にとって安全ということになり、我々は敗訴してしまうのである。
そこで今、原発差止訴訟の改革の試みがなされている。大飯原発差止の歴史的判決をした樋口英明元裁判長の主張と指導によるものである。樋口氏は「原発差止訴訟は高度な科学・技術論争ではなく、高校生でも分かる論理でしなければならない」と言う。「地震大国日本の原発は地震に強くなければならないが耐震設計の基になる「基準地震動」は余りに低すぎる。日本のここ20年の地震記録と比較しても余りに低水準であり、基準地震動を超える地震は日常的に起こりうる。ハウスメーカーの住宅の耐震性(数千ガル)よりも原発の耐震性(数百ガル)の方が低いのだが、それでは話にならない。第一、基準地震動の策定方法は仮説と推測の体系であって信頼できない。」「こういう分かり易い論理で戦うべきである。高度な科学論争は「学界」にまかせておくべきである。」
このような主張・立証により裁判官が安心して判断できるようにしようというのが樋口理論である。樋口理論による裁判はすでに広島地裁での伊方原発差止仮処分及び東京地裁での六ヶ所再処理工場差止本訴で始まっている。この改革による成果が期待される。
ところで日本のエネルギー計画に地殻変動が起きている。自然エネルギーが世界中で急発展し、大きく実用化され、しかも極めて安価になっていることがNHKや日経新聞で報道され、菅首相がそれを取り入れ、2050年にCO2排出を実質0にする、そのために自然エネルギーを急速に促進すると宣言した。それを聞いた経済界は一斉に自然エネルギー事業に重点を置き始めた。自然エネルギーが爆発的に増大すれば、原発の存在意義は急速に薄れる。原発は自然エネルギーに比べ余りに高く、危険だからである。したがって近い将来必ず消滅する。しかしその日までにもう一度、原発が重大事故を起こしたら何の意味もない。放射能にまみれた自然エネルギー大国は私達の望むことではない。だから私達は自然エネルギーを促進する運動と同時に平行して原発差止の運動や訴訟を力強く推進しなければならない。
プロフィール: 数々の大型経済事件でビジネス弁護士として活躍する一方、2011年3月11日の福島原発事故をきっかけに全国の原発差止訴訟弁護団をまとめ、自身も多くの弁護団に参加している。また、社会貢献活動として中国残留孤児、フィリピン残留日系人の国籍取得にも尽力している。2020年に企画・製作として「映画「日本人の忘れもの」(Kプロジェクト)を発表。同時期に共著「ハポンを取り戻す」(ころから)を発刊。
【ディスカッサント】レミ・スコシマロ(トゥールーズ大学)
プロフィール: 地理学博士。トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学日本言語文化准教授。日仏会館・フランス国立日本研究所 協力研究員
【司会・連続講演会担当者】アドリエンヌ・サラ(日仏会館・フランス国立日本研究所)
【主催】日仏会館・フランス国立日本研究所 【助成】フランス国立社会科学高等研究院・日仏財団
連続講演会 「社会問題・労働問題・環境問題に関する訴訟の役割―日仏比較の 視点から」
2021年01月20日(水):第1回「環境損害の賠償、国家責任、気候変動訴訟、環境法 」
イザベル・ジロドゥ(東京大学)、大久保規子(大阪大学)、エヴ・トリュイレ(フランス国立科学研究センター)
【ディスカッサント】高村ゆかり(東京大学)
2021年02月04日(木):第2回「福島原発訴訟による政策形成の可能性:公害・環境訴訟の経験を踏まえて」
ポール・ジョバン(中央研究院)、馬奈木厳太郎(弁護士)、除本理史(大阪市立大学)
【ディスカッサント】小嶋里奈(技術土地社会研究所、ギュスターヴ・エッフェル大学)
2021年05月27日(木):第3回「法と労働安全衛生」
笠木映里 (フランス国立科学センター、ボルドー大学)、川人博 (弁護士)、ジェローム・ペリス(パリ政治学院)
【ディスカッサント】アドリエンヌ・サラ(日仏会館・フランス国立日本研究所)
2021年06月24日(木):第4回「日仏における法の社会的・政治的使用:大義(コーズ)と関連付けた活動・運動の例」
リオラ・イスラエル(フランス国立社会科学高等研究院)、飯田 高(東京大学)【ディスカッサント】高村学人(立命館大学)
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