日時: | 2024年02月28日(水) 18:00〜20:00 |
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場所: | ホール |
講演者: | サンドラ・ロジェ(パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学)、岡野八代(同志社大学) |
サンドラ・ロジェ 「ケア、不可視化と傷つけられやすさ」 ケアの倫理は、まず女性的なものとして認識されていた道徳的価値観(ケア、他者への配慮、思いやり)を高める提案によって、倫理の支配的な概念を修正することに貢献した。 それは、倫理の問題を政治に持ち込み、傷つけられやすさを道徳の中心に据えた。 支配的な道徳理論を活気づける自律性の理想に逆らって、ケアは、私たちは皆、自分の欲求を満たし、日常生活や災害時でも生きていくために他者を必要としているということを思い出させてくれる。ケアの倫理は、道徳に導入されて以来、社会的プロジェクトとしてより広範囲に明らかになった。一方、ケアの断片化により、他者のための取組みにおける道徳的および政治的自立の本当の基盤が見えにくくなっている。 サンドラ・ロジェは、パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学の哲学科教授、IUF 会員。 ERC Advanced Grant DEMOSERIES プログラムの主任研究者。 言語哲学と道徳哲学に関する多数の著作あり。近著に 『Nos vies en series』(Climats、2019)、『Series, Laboratory ofoliticalwakening』(CNRS Editions、2023)、『TV-Philosophy』(University of Exeter Press)がある。 岡野八代「ケア、環境、安全保障 ー日本における事例から」 ケアは一般的に、調和的で暖かな親密な関係性のなかで行われる営みだと理解されがちである。しかしわたしがケア研究、とくにケアの倫理研究に出会ったのは、日本軍「慰安婦」問題を研究するなかであった。ケアとは、圧倒的な暴力、理不尽な暴力に傷つけられた者たちへの注視をも意味している。日本は、毎年必ず日本列島に襲い掛かる台風や、2024年お正月の能登半島大地震でまたしても目を開かされたように、とても脆弱で、日本に住む誰しもが突然、なすすべもなく自然に飲み込まれてしまうような環境のなかにある。他方で、コロナ禍のなか、医療をはじめとした公的なケアがいかに不足しているかを経験したが、そうしたことは忘れたかのように、日本政府は軍事倍増、世界第三の軍事大国を目指そうとしている。ケアの倫理研究から、いかに現在の日本の環境と安全保障問題を考えることができるのか。 岡野八代は同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員、専門は西洋政治思想史・フェミニズム理論。主著に『ケアの倫理――フェミニズムの政治思想』(岩波新書、2024年)、『ケアするのは誰か?――新しい民主主義のかたちへ』(白澤社、2020年)、『戦争に抗するー-ケアの倫理と平和の構想』(岩波書店、2015年)、『フェミニズムの政治学――ケアの倫理をグローバル社会へ』(みすず書房、2012年)など。共著に牟田和恵・丸山里美・岡野八代『女性たちで子を産み育てるということ――精子提供による家族づくり』(白澤社、2021年)、高橋哲哉・岡野八代『憲法のポリティカー-哲学者と政治学者との対話』(白澤社、2010年)。訳書に、ケア・コレクティブ著『ケア宣言――相互依存の政治へ』(大月書店、2021年)、アイリス・ヤング著『正義への責任』(岩波文庫、2022年)、エヴァ・フェダー・キテイ著『愛の労働 あるいは依存とケアの正義論 新装版』(白澤社、2023年)など。 【司会】ソフィー・ウダール(日仏会館・フランス国立日本研究所) |
* イベントは、特に記載のない限り、すべて無料となっております。参加をご希望の方はお申し込みをお願いいたします。
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