Maison Franco-japonaise: 日仏会館 日仏会館・フランス国立日本研究所(Umifre 19 フランス外務省・国立科学研究センター)

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2019年5月25日(土)のイベント

Web時代のマザリナード文書−日仏共同研究プロジェクトの構想


使用言語:日本語 (通訳なし)
日時: 2019年05月25日(土) 15:30〜17:30
場所: 601号室
講演者: 一丸禎子氏(学習院大学)
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マザラン肖像


17世紀フランスのフロンドの乱は印刷術を駆使した文書合戦でもありました。宰相マザランを批判する文書には当時からコレクターがいて、約5000種類以上の文書が今日に伝えられています。(日本では東京大学総合図書館が約2700点所蔵。)日仏共同のデジタル化とWeb公開による新しい研究領域の可能性をご紹介します。

 17世紀のマザリナード文書Les Mazarinadesは、フランスのルイ14世の幼年期、絶対王政確立前夜に起きた内乱《フロンドの乱》(1648-1653)の間に印刷出版あるいは手書きで回覧された文書です。約5,000種類が現存しております。mazarinadeという呼称が表しておりますように、時の宰相マザランJules Mazarinの名前に由来しますが、反マザランの誹謗文書だけでなく、高等法院裁決、手紙、戦況報告、滑稽な風刺詩、果てはゴシップから料理のレシピにいたるまでありとあらゆるものが含まれます(なぜかというと、同時代からコレクターがおりまして、何でもかんでも集める傾向にあったからなのです)。
書き手の多くは匿名の後ろに隠れておりますが、その中には17世紀の文人として有名なレ枢機卿、スカロン、シラノ・ド・ベルジュラック、サラザン、ビュシー・ラビュタン(この人は親戚のセヴィニエ夫人の方が日本では有名ですね)などもいます。
17世紀といえば古典主義、モリエールの戯曲にもなった極端な洗練に走るプレシューズたちの時代とご記憶かもしれませんが、マザリナード文書にはパリの市場の言葉、方言、俚語、古い言い回しからラテン語など、じつに豊かな言語表現があふれています。ラシーヌがあの悲劇を3,000足らずの語彙で表現したのとは真逆の世界ですね。
しかしながら、これらの文書は文学者からも、歴史学者からも鬼っ子の扱いを受けてきました。古典主義専門の文学者は、マザリナード文書は粗野で下品だと申しますし、歴史学者は、誹謗中傷するために嘘が含まれている場合があると敬遠してきました。
けれども本当は量があまりにも厖大で、しかもフランス国内だけでなくヨーロッパ各地、ロシア、バチカン、アメリカ、そして日本にまで大小さまざまなコレクションが存在するからなのです。1980年代にクリスチャン・ジュオーという研究者が嘆いておりますが、まさに彼の言うように「すべてのマザナード文書を読むのに果たして人間の一生で足りるだろうか…」とつぶやかざるを得ない。たしかに…マザリナード文書はたった1頁から718頁に及ぶものまであるのです。それが「わかっているだけで」約5,000種類。
さて、しかし、現代はデジタル化時代です。実はこの難攻不落の資料体と見えたマザリナード文書もついに観念する時が来ました。私たちのマザリナード・プロジェクトはフランスに先駆けてこれらの文書をデジタル化し、言語コーパスとして公開することに取り組んでいます。まず東京大学所蔵コレクション『マザリナード集成』約2,700点が画像データ化され、手作業でテクストデータに変換、その際にXML文書を作り、語彙検索のできるオンライン・デジタル・コーパスとして構築したのです(http://mazarinades.org)。
現在は次のフェーズに入っておりまして、この文書を世界で一番たくさん持っているパリのマザリーヌ図書館(日本ではマザラン図書館と紹介されているかもしれません)に協力していただき全種類をデジタル化しようと計画しています。マザリーヌ図書館では目下、ユベール・キャリエが遺した総合目録(草稿)をベースに最新のデジタル版カタログを準備しているところで、私たちのプロジェクトとは相互補完的な学術情報基盤になります。デジタル化した情報を使って、いよいよ世界のどこにいてもマザリナード文書を開き、研究できる状態になります。つまりデジタルヒューマニティーズの領域にこれから入るわけですね。
マザリナード・プロジェクトの言語コーパスはどなたにもお使いいただけます。皆さんもどうぞのぞいてみてください。
「マザリナード文書 デジタル人文学への誘惑」一丸禎子著(日仏図書館情報学会ニュースレター, no 225, 2018, p.5より抜粋)

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ガブリエル・ノーデ肖像


プロフィール
学習院大学文学部・講師。マザリナード・プロジェクト代表(www.mazarinades.org)として、マザリナード国際共同研究サイトを共同運営する(www.mazarinades.net)。 主な著作に、「マザリナード・プロジェクトの挑戦 : 古文書研究の新しい地平線をめざして」『学習院大学文学部研究年報』62, 2015, p. 97-124,「マザリナード文書の公開に先立って : その特性と東京大学コレクションの紹介」『人文』9, 2010, p. 97-117,「マザリナード・プロジェクト : 人文科学研究の新しいコーパスを考察する」『人文』7, 2008, p. 87-106. 他

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マザリナード文書


【司会】安江明夫(日仏図書館情報学会)
【主催】日仏図書館情報学会、日仏会館・フランス国立日本研究所
【協力】東京大学総合図書館

* イベントは、特に記載のない限り、すべて無料となっております。参加をご希望の方はお申し込みをお願いいたします。

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