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敗戦後の日本では米軍占領下で非軍国主義化と民主化の改革が行われた。婦人参政権、労働組合活動の自由、教育の民主化、なかでも天皇制イデロギーを支えた国家神道の廃止と財閥解体、農地解放は戦後改革の柱であった。こうしたコンテクストで、丸山眞男ら「近代主義」としてくくられる戦後啓蒙の思想家たちは、1960年代初めまで、日本を戦争にみちびいた「超国家主義」を分析し、未完に終わった日本の近代化を完遂するため、個人の尊重と民主主義の条件について考えた。ところが戦前天皇制下の「日本イデオロギー」の批判的分析はフランスでは知られておらず、日本においては忘却の淵に沈みつつある。 靖国、教科書問題、憲法改正など慢性的問題の回帰は、周辺諸国の公憤を引き起こし、海外のメデイアは日本は記憶の義務を果たしていないという論調を流している。一部の突出した政治家の発言だけが報道され、それがそのまま学界や一般世論の意見だと誤解されているのである。 フランスでは戦後日本の議論に関する知識が欠けているため、日仏間の知的対話がむずかしい。日本人による歴史研究の蓄積やフランス人研究者による仏訳の努力にもかかわらず、戦後日本の思想家は外国、特にフランスでは知られていない。その意味で本シンポ企画は、ピエール・スイリが代表するジュネーヴ・グループによる戦前日本の植民地主義に対する批判的エッセーを集めたLe Japon colonial (1880-1930). Les voix de la dissension, Les Belles Lettres, 2014) につづき、戦後思想家による天皇制イデオロギーの批判的分析を集めた第二弾の翻訳プロジェクトに呼応するものである。 1960年安保後の日本の知的シーンでは近代主義は次第に指導的位置を失い、アメリカの社会科学の影響を受けた文化主義的アプローチによる日本人論 が流行し、他方では社共の旧左翼を批判するラジカルな新左翼が登場する。さらに左右の反近代的思想潮流が戦後啓蒙の限界を指摘した。近代主義のブルジョア的立場(プロレタリアートの忘却)、エリート主義(民衆の忘却)、欧州中心のオクシデンタリズム(アジアの忘却)、近代的個人主義(共同体的伝統の忘却)、 日本に関する否定的イメージ(国民精神の忘却)。 1990年代に登場した国民国家論、ジェンダー論、ポストコロニアリズムは戦後思想の限界を批判するあまり、その知的遺産を一掃するきらいがあった。2008年の加藤周一、2012年の吉本隆明という最後の声の消滅により、戦後思想は若い世代にとって遠いものになり、戦後そのものが過去のものになりつつある。 成田龍一、小熊英二、苅部直といった戦後思想に関するアンソロジーや研究書の著者と日本の戦後思想を翻訳するフランスの日本研究者との出会いは、今日的コンテクストで戦後思想を読み直す意義について新しい討議空間を切りひらき、かつ戦後思想と無縁な、あるいは批判的な新しい世代との世代間討議の舞台になるであろう。 本シンポジウムの目的はしたがって二重である。日本では忘れられた、海外ではよく知られていない戦後思想の基本的テキストに立ち帰り、日本の戦後思想を世界の思想的遺産のなかに位置づけるべく日仏で共同討議をすることである。基調講演者には『戦後思想の模索』『戦後が若かった頃』の著者でサルトル研究者の海老坂武を予定している。
【講師】宇野重規(東京大学)、海老坂武(作家)、小熊英二 (慶応義塾大学)、苅部直(東京大学)、サミュエル・グエ(ジュネーブ大学)、高榮蘭 (日本大学)、白井聡(京都精華大学)、ピエール=フランソワ・スイリ(ジュネーブ大学)、マヤ・トデスキニ(ジュネーブ大学)、中島岳志 (北海道大学)、成田龍一(日本女子大学)、アンヌ・バイヤール=坂井(フランス国立東洋言語文化大学)、朴裕河(世宗大学校)、福井憲彦(学習院大学)、三浦信孝(中央大学名誉教授)、ニコラ・モラール(日仏会館・日本研究センター)、山元一(慶応義塾大学)、ミカエル・リュッケン(フランス国立東洋言語文化大学)、佐藤泉(青山学院大学)
【主催】(公財)日仏会館、日仏会館フランス事務所 【助成】(公財)関記念財団、在日スイス大使館/科学技術部 【協力】ジュネーヴ大学、フランス国立東洋言語文化大学・日本研究センター 【後援】在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
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